羊を飼いたい人へ|羊飼いが教える「現実」|

🐏羊と畜産

「羊を飼ってみたい」

そう思ってこのページにたどり着いたあなたへ。まず最初に、正直にお伝えします。

羊は、犬や猫の延長では飼えません。

はじめまして、キリタルです。動物の飼育に携わって18年、今は羊飼いをしています。この記事では、かわいいだけじゃない羊飼育の「現実」と、それでも羊と暮らしたい人のための現実的な道筋を、実体験ベースでお話しします。

夢を壊したいわけではありません。むしろ、ちゃんと知ったうえで羊と関わってくれる人が増えたら、羊飼いとしてこんなにうれしいことはないからです。

結論からお話しした理由は、ここを誤解したまま羊を迎えてしまうと、人も羊も不幸になるからです。

羊が犬や猫と決定的に違う点は、大きく3つあります。

  1. 羊は法律上「家畜」
  2. 技術的な世話が多い
  3. 診てくれる動物病院が、ほぼなし

一つずつ見ていきましょう。

【1】羊を飼うには、ペットと違って行政への報告義務があります。毎年4~5月くらいに飼育頭数の定期報告があります。ほかにも伝染病予防のためのルールが法律で決まっていて、「買ってきて庭に放す」では済みません。

【2】毛刈り、蹄の手入れ、駆虫。他の家畜と比べても技術的な作業を必要とします。特に毛刈りは初見では難易度が高く、それでいて年に1回は必ず必要。放置すれば命に関わります。「面倒だから今年はパス」が許されない。

【3】羊を診られる獣医さんは非常に少ないのが現実です。体調を崩したとき「近所の動物病院へ」ができない。これは飼ってみて一番痛感する違いかもしれません。

羊を飼うのに必要なもの

「それでも飼いたい」という方のために、まず何が必要かをお話しします。

・土地

羊は草を食べて生きる動物です。1頭あたり最低でも10a(約31ⅿ×31ⅿ)ほしいところです。庭の広さで飼えるかどうか、まずここで判断が分かれます。

・柵

羊は意外と脱走します。そして、野犬や熊などの外部からの危険もあります。羊を守るためにも、しっかりとした柵が必須です。電気柵やワイヤーメッシュが主流です。

・小屋(雨風をしのげる場所)

羊は雨に濡れることと蒸れに弱い動物です。豪華である必要はありませんが、日陰と雨宿りができる場所は絶対に必要です。

・毎日のエサと水

夏は牧草が伸びていても、冬は乾草を毎日用意します。1頭あたり1日4kgくらい。水も毎日交換。

こうして並べると当たり前に見えますが、「土地と柵」の時点で、住宅街で飼うのはかなり厳しいことが伝わるかと思います。

お金の話|初期費用と毎月かかる費用

次に、一番気になるお金の話です。あくまで私の経験と、調べた相場をあわせた金額ですが、リアルな数字でお話しします。

・羊の購入価格

品種や月齢によって幅がありますが、おおよそ10万円~20万円が目安です。子羊か大人か、血統によっても変わります。

・柵、小屋など

柵に何を使用するか(電気柵かワイヤーメッシュ)で金額は変わりますが、50万円ほど見ておくと安心です。DIYでどこまでやるかで大きく変わる部分です。

・毎月、毎年かかるお金

エサ代は1日およそ300円かかるといわれています。年間でおよそ11万円(月9000円ほど)。医療関係は個体により変わりますが年2~3万円。毛刈りをプロに頼む場合、1頭あたり1000円。

・忘れがちな「見えない出費」

柵の修理、暑さ・寒さ対策、急な体調不良への備え。予定外の出費は必ずあります。

合計すると、羊1頭にかかるお金は決して安くありません。ただ、犬の生涯費用が300万円ともいわれる時代です。「桁違いに高い」わけではなく、「手間と責任の種類が違う」というのが、私の実感です。

意外と知られていない大変なこと

お金や設備は、正直なんとかなります。本当に知っておいてほしいのは、ここからです。

・365日、休みなし

エサと水の世話は毎日です。お正月も、台風の日も、体調が悪い日も。旅行も羊を飼った日から簡単ではなくなります。代わりに世話を頼める人を見つけられるかどうかは、飼う前に考えておくべきことです。

・「かわいい」だけでは終わらない作業があります

毛刈りや爪切り、駆虫。どれも羊を押さえて行う力仕事です。嫌がる羊を保定して作業する大変さは、やってみると想像以上です。毛刈りは慣れないと羊を傷つけてしまう場合もあります。私もはじめは血だらけにしてしまいました。幸い浅い傷で済みましたが、それ以来、刃の当て方を徹底的に練習しました。

・死と向き合うことになります

これは書くか迷いましたが、避けて通れないので書きます。羊は犬や猫よりも体調の変化がわかりにくく、「昨日まで元気だったのに」ということが起こる動物です。命を預かるとは、その瞬間に立ち会う覚悟を持つことでもあります。

それでも私が18年、動物の飼育を続けているのは――次の章でお話しします。

それでも羊と暮らしたい人へ|現実的な3つの道

ここまで読んで「それでも羊が好きだ」と思ったあなたへ。いきなり飼う前に、現実的な3つの道を提案します。

・道①:羊のいる牧場で働く・手伝う(一番のおすすめ)

理屈より、一度現場を体験するのが一番です。観光牧場や羊を飼っている農場では、季節の繁忙期に人手を探していることがあります。毛刈りの時期に手伝いに行くだけでも、本やSNSではわからない「羊のリアル」がわかります。注意点は観光牧場などの他の動物がいる場合、うまく羊の担当になれる保証はありません。

・道②:「飼う」以外の関わり方を選ぶ

最近は除草のためのレンタル羊や、牧場のオーナー制度・サポーター制度など、飼わずに羊と関わる方法も増えています。「羊のいる暮らし」が目的なら、これで十分叶う人も多いはずです。

・道③:本気で飼うなら、行政への相談から始める

ここまで読んでなお飼いたい方は、お住いの地域の家畜保健衛生所に相談するところから始めてください。地域のルール、必要な手続き、近隣への配慮。先に確認しておけば、あとのトラブルを防げます。そして可能なら、飼い始める前に道①を経験してください。

順番を間違えなければ、羊との暮らしは本当に豊かなものになります。

まとめ

最後に、この記事でお伝えしたことを振り返ります。

・羊は法律上「家畜」。犬や猫の延長では飼えません
・土地、柵、小屋、毎日の世話。準備するものは多い
・お金は「桁違いに高い」のではなく「手間と責任の種類が違う」
・365日休みなし。そして命と向き合う覚悟が必要
・いきなり飼わず、まず牧場で羊に触れることから

ずいぶん厳しいことを書きました。それでも私は、羊という動物が大好きです。

もこもこの体で寄ってくる姿はぎゅっとしたくなりますし、群れでのんびり草を食べる風景は、何年経っても見飽きることがありません。

だからこそ、ちゃんと知ったうえで羊と関わる人が、一人でも増えたらうれしいです。

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