「北海道なんだから、羊も涼しくてラクだよね?」
本州にいるとそんな考えになることもあります。私がそうでした。
答えは「半分ホント、半分ウソ」。この記事では、畜産を13年経験し、北海道での羊飼育を経験した私が、実はあまり知られていない羊の夏の過ごし方をまとめました。

「北海道なら涼しいから大丈夫」は半分ウソ
北海道の夏は本州より短くて涼しい──それは沿岸部の話です。内陸になると7月・8月は30℃を超える日が普通にあります。ここ数年は特に顕著で、旭川や帯広エリアでは35℃近くになることも。2025年は観測史上最も暑い7月になった地域もありました。
今年の7月17日は、風もなく暑くて気温計が32℃を記録してました。飲水量が多くなって追加で買い出しにいったほどです。
それに、羊は毛皮をまとった動物。少しでも気温が上がれば、ダメージは私たち人間より大きくなります。「北海道だから余裕」という感覚は、羊飼いとしては持てません。
羊が暑さに弱い理由──汗をかけない体のしくみ
羊はほとんど汗をかきません。人間は皮膚から汗を出して体温を下げますが、羊の汗腺は非常に少なく、その機能もわずかです。
では、どうやって体温を調節しているかというと──「ハアハア呼吸(パンティング)」です。口を開けて速く浅い呼吸をくり返し、気道の水分を蒸発させることで熱を外に逃がします。犬と同じしくみですね。
🌿 豆知識:気温が33℃を超えると、羊の呼吸は「酸素を取り込む」ことよりも「熱を逃がす」ことを優先し始めます。このとき、羊の体には非常に大きな負担がかかっています。
暑熱ストレスが続くと、体温上昇・食欲低下・免疫低下が起き、最悪の場合は命に関わります。毛刈り直後は皮膚が直射日光にさらされる危険もあって、どちらの季節にも気の抜けない理由があります。
毛刈りが終わった7月、牧場はどんな様子?
一般には、毛刈りは5〜6月に終わります。7月に入ると羊の毛はまだ短く、見た目はすっきり。春に生まれた仔羊たちはもうすっかり大きくなっていますが、舎内で暑くてはぁはぁ。扇風機の前に陣取ってる子もいますね。
ヒトでもそうですが、赤ちゃんはいい匂いがします。子羊もそれは同じなのですが、この頃になると暑くて汗をかいたり、横になることも多く体が汚れて、獣臭くなります。子羊のころはギューっと抱きしめたくなる感じですが、もうためらわれる時期に突入です😢
放牧中の羊たちは自分で日陰を探して移動します。木の陰、小屋の陰、柵の陰……羊は意外と賢くて、暑い時間帯は涼しい場所をちゃんと知っています。でも、それを可能にする「環境」を整えるのが私たちの仕事です。
夏の最大の敵「フライストライク」とは
羊飼いの間では夏の最大のリスクとして知られているのに、一般にはほとんど知られていない問題があります。「フライストライク(蝿蛆症)」です。
⚠ フライストライクとは:ハエ(主にキンバエ系)が羊の皮膚や汚れた毛に卵を産みつけ、孵化したウジ虫が羊の生きた皮膚や肉を食べる病気です。発見が遅れると羊が死亡するケースもある、命に関わる深刻なトラブルです。
なぜ夏に多いか、理由は明快です。高温多湿でハエが大量発生する時期に、羊のお尻まわりや背中に糞や尿で汚れた部分があると、そこに卵を産まれやすくなります。
実際にやっている予防策
- お尻まわりの毛を短く刈る(クラッチング):汚れが付着しにくくなります
- ハエの忌避剤散布:舎内や生体自体に塗布できるものもある。粘着性ハエ取りシートも併用
- 毎日の「見回り」:羊の後ろ姿・お尻まわりを目でチェックする習慣
調子を崩した個体はターゲットになりやすい。今年はお尻周りでフライストライクになってしまっていた個体がありました。発見後毛を刈り洗浄、消毒処置済み
オーストラリアやニュージーランドでは、フライストライク対策のワクチン開発に数億円規模の投資が行われているほど、畜産界では深刻なテーマです。日本ではまだあまり語られていませんが、羊を飼う人なら必ず知っておくべきリスクのひとつだと思っています。
私が毎年やっている夏の対策3つ
13年間試行錯誤してきて、今は毎年この3つを柱にしています。
① 日陰と風通しを最優先にする
羊は自分で日陰を探しますが、その日陰を「用意する」のが人間の仕事です。
遮光ネットを張るのも効果があります。
扇風機の設置も有効です。畜体に直接あてるよりかは、空気の流れをよくすることに重点を置いたほうがいいでしょう。
② 水の管理を徹底する
暑い時期は羊の飲水量が大幅に増えます。水槽は高温で汚れやすいため、夏だけは見回りの頻度を増やして水の確認・交換をしています。飲水が減ると体調悪化が一気に進むので、水だけは絶対に切らしません。
放牧地は水道がないのでバケツ使用になりますが、暑いとすぐにボウフラがわいたり、コケが生えたりします。めんどくさがらず毎日掃除してあげるのも管理の一環です。
③ 活動・給餌は朝夕に集中させる
羊は暑い時間帯(午前10時〜午後3時頃)は食欲が落ち、動きも鈍くなります。この時間に無理に動かしても羊にも自分にも負担なだけ。なので、給餌や作業は朝早くか夕方にまとめるようにしています。夏の朝5時の牧場は、実は1日でいちばん気持ちいい時間です。
大変だけど、夏が好きな理由
夏は暑くてヒトも羊も嫌になる季節ですが、放牧地×羊×北海道、このシチュエーションは素晴らしいの一言です。たまに放牧地の上から見渡して感動しております。これは北海道でしか味わえない景色だと感じますね。
大変な夏を一緒に乗り越えた羊と、また秋を迎える。家畜と一緒にそのくり返しができるのが、私にとっての天職なんでしょうね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。羊のこと、もっと知りたい方はほかの記事もどうぞ。

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